今回は福井県の「池月ファン」にお話を伺いました。
福井県あわら市 竹又 善文氏
私と「池月」との出会いは10年ほど前、「森酒舗」のショーケースの前でした。福井県内ではあまり見かけない銘柄に、店主の森さんから「小さい蔵元ですが、手造りで頑張っていますよ」とのお薦めもあり、半信半疑で口にすることにしました。たぶん「みなもにうかぶ月」という吟醸酒だったと思います。
試飲前、「どんなお酒ですか」と尋ねたところ、森さんから「私には体に優しく飲み飽きしないので、日々の晩酌にはもってこいですよ」との言葉。
控えめな香りながらしっかりした個性もあって、何より自然と盃が進む良いお酒だとひと目惚れしました。
石川県の酒を口にする機会も少なくなっかたが、まだこんな素晴らしいお酒があったことに驚くとともに、改めて北陸の日本酒のレベルの高さを再認識させられました。
北陸新幹線の金沢開通から2年あまり、2022年には敦賀まで延伸されます。国内外の観光客の方にアピールするには絶好の機会です。「池月」をはじめ、北陸地区の蔵元により注目してもらえたらば、日本酒のさらなる発展につながるでしょう。地元人としても、誇りをもって大いに発信したいと思います。
もう一つ、「池月」と触れ合う最大のイベント「秋の宴」には、福井開催の初回から休まず(計6回)参加させていただいています。毎回違うテーマが楽しみで、ロックや凍結酒、様々なグラスでの飲み比べ、料理との相性など。中でも、燗付けの温度による味わいの変化はとても興味深く、日本酒の奥行きの深さや幅の広がりを感じ勉強になりました。
昨年の「秋の宴」には、”まさか”川井杜氏さんが参加してくれるとは夢にも思いませんでしたお話させてもらうと、酒造りに対する真摯な姿勢や熱い想いが、杜氏さんの言葉のから端々から伝わってきました。特に、川井杜氏さんの「派手でなくとも基本に忠実な飽きのこない酒を造りたい」という思いを感じつつ飲む「池月」は、また格別な味を醸し出していました。「本当にうまい酒とは、こういうものなのかも…」と人のつながりと美味しいお酒を堪能しました。
また、サラリーマン時代から日本酒に惚れ込んで酒造りの世界に飛び込んだ経緯や、「池月」と柳矢杜氏との運命的な出会いから杜氏職を目指したことなど、気さくにいろんなお話をしてくださいました。
この人の作るお酒を今後も見守って行きたいと強く思いました。
最後に、日本酒はネームバリューや価格でもなく、飲む人との相性に尽きると思う。森さんの「身体に優しい」という表現もそうだが、まずは飲んでみて、また杜氏さんとお会いしてみて、より明確になりました。
そのお人柄から醸し出される、数字だけでは計れない”旨味”が存在するということ。造る人と飲む人の思いが共有されると、より美味しく楽しめるということ。日本酒が文化と言われるゆえんなのかもしれない。
今回は、「酒母」についてお話します。
「酒母」は、「モト」とも呼ばれます。その名前のとおり、「醪」でアルコール発酵させるための元になるものです。では具体的にどんなものなのか説明します。
「酒母」とは、短く申しますと、「蒸米」と「麹」、水を仕込み、これを酸性にして多数の酵母を純粋に培養したものです。では、なぜそのようなものが必要なのでしょう?
それは、先ほど書きました「醪」で健全な発酵を行わせるためです。「醪」は開放発酵(常時外気の触れている)であるので、「醪」は常に雑菌汚染にさらされています。特に「醪」初期(留仕込み直後)では酵母の増殖も十分ではなく、まだアルコール濃度も低いため、一層、雑菌汚染の危険性が大きいのです。なので、優良酵母を純粋に多量含み、多量の「乳酸」も含んだ「酒母」が必要なのです。この「乳酸」は細菌類の増殖を抑える効果や殺菌効果があり、乳酸の存在下(酸性)では「酵母」のみを増殖させることができるのです。
さて、「酒母」は、この「乳酸」をいかに得るかによって2つに区分されます。
1つは、「酒母」の仕込み時に醸造用乳酸を添加する「速醸系酒母」、もう1つは酒母の中に乳酸菌を取り込んで生育し、その乳酸菌によって乳酸を生育する「生モト系酒母」です。「速醸系酒母」の特徴は、気温の影響を受けにくく安定した酒質が得られること、香りが立ちやすく、すっきりした味わいに仕上がる事が挙げられます。「池月」はこの「速醸系酒母」です。「生モト系酒母」はまた2つに分けられます。「山廃」と「生モト」ってラベルで見たことないですか?それです。「生モト系」の特徴は、酸度が高く、どっしり腰のすわった骨太な酒質になります。また、香りも独特で、この香りに関しては好き嫌いが分けれるところです。また、「生モト系」の酒母造りの期間は「速醸系」に比べてほぼ倍の日数がかかります。
日本酒の味わいはこのような「酒母」の違いで変わります。そのほかに「酵母」の違い、「原料米」の違い、またその原料米の「精白」、また「吸水」、「発酵温度」などなど、これらの組み合わせでそれぞれお酒の味が無限に変わる…各お蔵によって味が違うはずですよね。