今回、長年にわたり「池月」を愛飲し、応援してくださってる松本清明さんに、地元の酒としての池月への思いを話してもらった。一言でいえば池月の魅力は、酒と人の温かさ、これに尽きると思う。
聞き手 谷澤 雅視
谷澤/「池月」を知ったきっかけを教えてください。
松本/知人の紹介で「おさけやさん西本」を訪れたのは20数年前になります。当時、私は日本酒に興味を持っていたわけではなくて、「おいしいお酒がある」と言われて半信半疑で伺ったのが最初です。
谷澤/伺ってそうでしたか。
松本/小さなお店でしたが、なぜはお酒がおいしそうに見えましたね。気さくなご主人だったから、いろんなお話や試飲もさせていただきました。その中から一番飲みやすかったお酒を買ったように思います。その時は、残念ながら「池月」ではなかったですが…
谷澤/「池月」を飲まれるきっかけは何ですか。
松本/通い始めてしばらく経ったころに西本さんから薦められました。今思えば、「池月」ブランドを立ち上げ始めたころだったようです。
谷澤/私自身も当時からお付き合いしていますが、鳥屋酒造さんには全幅の信頼を抱いています。
松本/私も頑張っている人を見ると応援したくなるというか、その人の笑顔を見ると私も元気になれますからね。だから、西本さんからいろんな話を聞きましたよ。蔵元のこと、杜氏のこと、酒造りのこと、そして酒屋さんの現状など。聞けば聞くほど「池月」が好きになりましたね。
谷澤/「池月」のお酒はどうですか。
松本/酒のプロではないので良し悪しはわかりませんが、料理を選ばないというか、ついつい手が出るお酒ですので”いい酒”だと思います。特に楽しみにしているのは、年末に発売される季節限定の「うすにごり」です。
谷澤/「いけつき」の顔ともいえる人気のお酒ですね。
松本/ 今年の味はどうだろうか…そんな楽しみが「うすにごり」にはあります。蔵内の風景を思い浮かべて飲む「うすにごり」は格別においしいですよ。
谷澤/ では、蔵元にも足を向けられているのですか?
松本/ 西本さん主催の蔵元見学会に毎年参加しています。手造り感満載の蔵内と杜氏さんはじめ蔵人さんのお人柄がお酒に映っているような、昔ながらのほっこりした雰囲気が漂っていて大好きです。また、新酒の試飲もさせていただくのですが、その時の川合社長さんの笑顔がまたお酒を美味しくしてくれます。西本さんが惚れるのもよくわかります。
谷澤/ その気持ちはよくわかります。また「秋の宴」も開催していますが。
松本/ 西本さんから声をかけてくれることが嬉しくて毎年参加させていただいています。実は皆勤賞ものですよ。蔵元見学も秋の宴も”人との付き合いができる場”であり、出会いは自分が変われる場であり、幅が広がるチャンスの場ととらえています。「池月」さんには、素晴らしい出会いがありますから、必ず参加するようにしています。
谷澤/ 「池月」に望むものはありますか。
松本/ それぞれ立場があって一概には言えませんが、会社だから大きくすることも大事ですが、小さくても長く続けることも大事ですね。「池月」は、お客様のために手間ひまを惜しまないような蔵元さんだと認識しています。だから、いたずらに大きな野望を持たないでほしいと思います。「池月」は、企業ではなく家業として日本の酒を支えてほしいと思います。
前回お話ししました通り、日本酒に限らず、世界のお酒に共通しているのは、原材料の中の糖を酵母が食べて生成したアルコールを利用していかんでいるとます。
例えば「ワイン」のような果物のお酒の場合は、そのブドウ果汁にそのまま糖が含まれています。その糖を直接、酵母が食べてアルコールを生成します。
この発酵形式を「単発酵」といいます。
「池月」のような日本酒の原料は米(蒸米)です。蒸米の中にデンプンはありますが、糖はありません。でも、ご飯をよく噛んでいると、だんだんと甘くなってくることがありませんか?これは、ヒトの唾液の中にデンプンの糖化酵素がご飯のデンプンを糖化したためなのです。実際、古代日本においてその原理を応用した「口噛酒」といったものも存在しました。
話が脱線しましたが日本酒において、唾液のように蒸米を糖化させてくれるものが「麹」なのです。
この日本酒における「米麹」ですが、簡単に言いますと「麹カビ」を蒸米に生やしたものです。
「カビ」と聞いてびっくりされたかもしれませんが、正式には「アスペルギルス・オリゼー」といい、まったく毒素は作らず、無害で安全な菌の一つです。主に日本の酒類製造現場で大活躍している菌なので、日本の「国菌」(こつきん)とも呼ばれる菌です。
「米麹」を造るには、まず、室温と湿度を調整できる「麹室」という個室の中で蒸米を拡げ、麹カビの胞子を撒きます。この胞子が蒸米に菌糸を喰いこませつつ増殖し、蒸米に糖化酵素を蓄積します。これが完成したものが「米麹」です。
出来上がるまでの時間は、約二日から二日半もかかります。良い「米麹」を造るためには、その間こまめに温度調整や湿度調整をしなければならないため、一時たりとも油断はできません。睡眠時間が無くなることも多々あります。なかなか大変な作業ですな。
麹造りは、よく「言葉の離せない気難しい乳幼児を育てるのと同じ。」と表現されますが、まったくをもってその通りだと思います。
「麹」はどんなものだかわかりましたか?次回はいよいよ酒造りの工程をお話しますよーお楽しみに!